タイトル
記録はどれくらい伸びる

目標タイム設定は計画的なトレーニングのPDCAサイクルを回すためにとても重要です。今回は目標設定に参考となる、「競泳選手キャリアで記録はどのように伸びていくのか」を考えてみます。これを基準にタイム設定すると現実的な目標設定が可能となるはずです。

まず選手キャリアでの記録の推移を見るために次のような条件で選手の記録を分析してみました。

  • コロナ禍の影響を取り除くため2020年以前の記録を採用
  • 2010年に中学1年生の世代が大学4年生になるまでの10年間の記録を追跡
  • 同世代の全国ランキング8位の記録を収集
  • 10年間のうち最も速い記録をピーク記録とし、各年(2010-2019)の記録をピーク記録を「1」となる比率に変換

この比率は毎年の全国ランキング8位の記録をピーク記録で割り算することで求めます。つまりこの比率は「ピーク記録の何倍か?」という意味なります。下に男子と女子の各種目の比率の一覧を示します。

男子の2010-2019年の同世代全国8位記録のピーク記録に対する比率。ピーク記録が1となる、ピーク記録に対して何倍かという比率を表している。
女子の2010-2019年の同世代全国8位記録のピーク記録に対する比率。ピーク記録が1となる、ピーク記録に対して何倍かという比率を表している。

上記表で1.000となる部分をピンクで強調し、どの年代でピークを迎えるのかを強調しています。年ごとの推移を可視化するためにグラフも掲載します。データが多いので自由形(Frを表記)を取り上げ、最短種目として50m(50Fr)、中距離種目として200m(200Fr)、長距離種目として1500m(女子は800m)(1500Fr、800Fr)の3つと取り上げ比較して図示しています。

この表やグラフを見ると次のようなことが読み取れます(この方法で読み取れることなので、ざっくりとした解釈です)。

  • 中学1年からの追跡だと、男子の方が女子に比べ記録の伸び幅が大きい
  • 長距離ほど中学生時代に記録が短縮し、高校から記録が停滞する
  • 短距離種目ほど大学時代でも記録の短縮が見込める
  • 男女とも大学1年時の記録が遅くなる(ほぼ全ての種目に共通)

この比率を使うと大学4年生までの記録推移の予測が可能です。統計学的な手法を用いて正確に推測する方法はありますが、今回はシンプル・簡単な推測としての提案です。まず自分の性別・種目・年代(中1から大4)の比率をつかってピーク記録を予測します。

ピーク記録=自分の記録/比率

例えば中学3年生男子で、100mバタフライのベストタイムが58秒の場合には、58秒/1.068を計算します。54秒31がピーク記録となります。このピーク記録に表の比率を掛け算することで各年代(中3〜大4)の記録を予測することができます。

  • 予測タイム(ピーク記録=54秒31)
  • 高1:56秒92(比率:1.048)
  • 高2:56秒27(比率:1.036)
  • 高3:55秒78(比率:1.027)
  • 大1:55秒66(比率:1.025)
  • 大2:54秒79(比率:1.009)
  • 大3:54秒79(比率:1.009)
  • 大4:54秒31(比率:1.000)

この予測は同世代での順位を維持しまま選手キャリアを重ねていった場合にこのような記録の推移にあると解釈できると思います。つまり、選手として上位を目指していくためにはこの記録よりも速いタイムの設定が必要となります。単純に速いタイムを設定すれば、上位に行くことは可能ですが最低水準を可視化することでより具体的な数値設定が可能になるので、ぜひ一度参考にしてみてください。