「クロールのローリングを考えよう1」ではローリングによっては肩の後方への移動、そしてそれにより手の後方への移動スピードの向上はほとんど起きないと説明しました。でもよく調べてみると、ローリングの定義によって、この解釈が変わってくる事がわかりました。最近のローリングに関する研究(kudo et al. 2019, 2021)では、ローリングを前方から見た肩の平面上の回転ではなく、胴体の上部の傾きを考慮した3次元的な回転として細かく考慮して分析しています。この研究によると胴体上部は進行方向に対して傾いており、また肩甲骨の動きによって胴体上部が3次元的に回転するため、ローリングによって肩の後方への移動が引き起こされると報告されています(下図)。

<補足説明>回転は一方向のだけでなく、実際には3次元的に回転しますので、それぞれの回転方向は図のように定義されています。一般的に泳者を横から見た場合の頭が上下する回転を「ピッチ」、上から見て頭が左右に動く回転を「ヨー」、正面からみて肩が上下する回転を「ロール」と呼びます。

回転定義

胴体の上部が傾いていることで、ローリングによって肩が後方に移動することになれば(B)、肩関節の中心とした円運動を描く手の速度(C)にプラスの影響を与えることになります。つまり下図でいう肩関節の円運動の中心部分である肩自体が後方に移動すれば、その移動が末端の手の速度に加味されるということです(B+C)。ローリングをどう定義するかによって、ローリングの意味や貢献度自体も変わってくるので、どのような前提で考えるかはものすごく重要ですね。

ただ個人的に、選手自身が実践することを考慮すると、ローリングは前方から見た肩の回旋(固定座標でのローリング)と考えたほうがシンプルで、選手にとっては受け入れ易いのではないかと思います。また胴体が傾いていることによるローリングでの肩の後方移動を意識しすぎると、胴体を立てることを誘発し、クロールを泳ぐ水平姿勢への悪影響を招きかねないと思います。これはコーチや研究者で意見が分かれるところでしょう。

今回はここまでとします。また次回投稿します。