速く泳ぐためにローリングは大きくすべきは正しいか?

第1回でも触れましたが、「速く泳ぐためにローリングの幅を大きくしたほうがよい」という考え方は正しくありません。速く泳ぐためにはピッチを増加させます。ピッチがるとクロール1周期の時間(左右ひとかきずつの所要時間)が短くなります。時間が短くなるにもかかわらずローリングの大きさを維持、もしくはさらに大きくしようとすると、大きなトルク(回転させようとする力)が必要になります。

ローリングのメインソース(動力源)は浮力によるトルク(第4回参照)ですが、浮力以外の力(流体力:水から得られる力)によるトルクもローリングに関与しています。つまり、ローリングを大きくするためには浮力と流体力によるトルクを大きくする必要があり、場合によっては推進方向に使われる流体力、すなわち推進力が犠牲になってしまうことが考えられます。Yanai(2004)の研究でも、同じ泳者が速く泳ぐ場合にはローリングをするためのトルクへの流体力の貢献度が大きくなると述べられています(遅く泳ぐ:約25%、速く泳ぐ:約39%)。このことはただ速く泳ごうとするだけでもローリングのために一部推進力が犠牲になっていると解釈できます。ですから、ローリングの幅を維持もしくは大きくしながら速く泳ごうとすると余計に推進力が犠牲になってしまい、泳者が期待するほど実際には速く泳げないということになるのです。

ローリングのために推進力が犠牲になるとはどういうことか疑問に思う方もにいると思うので解説します。手で発揮する力で考えてみます。ローリングを引き起こすためのトルクは、泳者を正面からみた平面上の力と回転の中心からの距離(正確には力の作用線と回転中心との垂直距離:モーメントアーム)で決まります(下図)。

この平面上の力の方向は推進方向ではないので、ローリングのためのトルクを手で生み出そうとすると、推進方向(後ろ向きに押す)ではなく上下左右方向に力を発揮することになるので、推進力が犠牲になってしまうということです。

ですから、ローリングはクロールという泳法を成立させるために必要な動きではあるが、これを大きくしながら速度を上げていくという発想は非現実的だと思います。速度・ピッチを上げるとローリングは小さくなるが必要な幅を維持するという考え方で良いと思います。Yanai(2003)の研究では一流選手は、この小さくなるローリングの幅を、肩と腰のねじり(Twist)によって補っていると述べています。

このねじりは、流体力といった外から受ける力(外力)によらずに、体の中の力のやり取り(内力)によって肩の傾き(ローリング)を実現できます。 このねじりを使えば、推進力を犠牲にしないローリングの成立が可能になります。短距離の選手の泳ぎ方、また中長距離の選手がスプリントする場合には、このねじりを効果的に使うことで推進力の犠牲を最小限できます。このねじりの活用と、浮力によるトルクの効果的な利用により、速度やピッチを増加させても必要なローリングの幅を確保し泳ぐことができます。これが「ねじりを活用せよ!」ということです。

今回はここまでとします。