ローリングで揚力発揮ってどういうこと?

クロールのローリングを考えよう1でも解説しましたが、ローリングは進行方向に対して泳者の肩を上下左右に動かすため、手のひらの揚力発揮に貢献すると考えられています。揚力とは、物体の移動方向に対して垂直に働く力のことです。物体の移動方向と平行逆向きに働く力は抗力と呼ばれ、後ろに押したら前に進むという感覚です。これに比べると揚力は手のひらを横の動かすことで、前に進むという感覚です。

この揚力発生は、手の移動方向に対する傾きをつけて動かすことが必要です。先端側が高くなるように傾けます。これにより移動方向に対して垂直な力を受ける事が出来ます。クロール泳での揚力発生のメカニズムは次の2つが有力です。

  • 傾きで流れを曲げたことによる反作用【流れを曲げる】
  • 傾きをつけた上で方向転換をすることによる渦の再利用【渦の再利用】

【流れを曲げる(上図左)】メカニズムは次の様に説明できます。下図のように手のひらの下側を流れる水は、傾きによって下向きに流れが曲げられます。傾きによって水を下に移動させているので、その反作用として手には上向きの力が働きます。飛行機のプロペラや主翼も同様なメカニズムで揚力を発生させており、翼の形状や移動のさせ方によってコアンダ効果や循環渦の作用によって効果的に揚力を大きくすることが出来ます。

【渦の再利用】のメカニズムは次の様に説明できます。ストローク中の手のひらには左右後方に渦が発生します(3次元には渦輪)。

後方に動かす手のひらに傾きをつけて、左右の移動方向を切り替える(右から左、もしくは左から右)と、これがきっかけ大きな渦が発生します。この現象がトップスイマーが泳ぐ水の流れを分析した研究(Matsuuchi et al. 2009)で発見されています。

渦は泳者が水を動かすことで発生する水の流れです。動かした水の量に比例してその渦の大きさも変化します。つまり、大きな渦の発生は泳者がたくさんの水の動かしていると解釈できるので、方向転換(左右方向への移動)により大きな推進力を発揮していると考えられています。

ただし、どのくらいの傾きが効果的なのか?渦を大きくするどのように方向転換すればいいのか?まではまだ明らかなっていません(また、なぜ渦が大きくなるかまでは私の理解不足で説明出来ません)。

これらのことを整理すると、ローリングが関与し、手のひらに揚力が発生するのは次の局面です。

  • 手の入水後のダウンスイープ【流れを曲げる】
  • 後方へのかき前半(プル局面)のインスイープ【流れを曲げる】
  • 後方へのかき中盤のアウトスイープ開始時【渦の再利用】
  • 後方へのかき後半(プッシュ局面)のアウトスイープ【流れを曲げる】
  • 後方へのかき後半(プッシュ局面)のアップスイープ【流れを曲げる】

人体の構造(可動域)とトップ選手の水中映像を見る限りでは、とくに短距離についてはインスイープとアウトスイープが顕著に確認できないので、揚力発揮はあまり起きていないと思います。これらの関する研究ももっと調べてみたいです。

ローリングは泳者を正面からみた場合の上下左右の肩の動きを生み出すので、肘や手首の動きと連動し手のひらの動きに影響するので、揚力発揮に関与すると説明できるのです。複雑ですね。

今回はここまでです。