キックのタイミングでローリングを助けよ!

第4回、第5回ではローリングのメカニズムに触れました。おさらいすると

  • ローリングの主な発生源は浮力によるトルク(回転力)/第4回
  • 進行方向以外への手の力発揮がローリングに影響する/第5回
  • ローリングを大きくしながら速度・ピッチを上げるのは非現実的/第5回

ということでした。前回は、手のかきについて触れたので、今回はキックです。前回説明したとおりに、ローリングの回転方向においては、正面からみた場合の上下左右方向への力発揮がトルクを生み出します。泳者が受ける力とその位置(ここでは身体重心周りの回転を考える)で回転力が決まります。例えば、キックで水を下方向に押さえつけると、足はその作用で上向きの力を受けます。この力と身体重心の位置関係でトルクの大きさと方向が決まります。下図の左足で考えると、下向きへのキック(蹴り下げ)では図中右回りのトルク、上向きのキック(蹴り上げ)では左回りのトルクを生み出します(下図)。

ローリングは浮力のトルクによってほとんど成立します。クロールは左右ひとかきの1ストロークで2~6回(2ビート、4ビート、6ビート)キックが入るので、そのタイミングによって浮力で成立するローリングを助けたり、妨げるように作用します。ローリングを助けるためのキックタイミングは下図のようなタイミングです。

片腕のリカバリー(水上を通り腕を戻す動き)により、水没体積がグライド側(泳者の左側)に偏ります。これによりグライド側の浮力が強くなるので逆側(泳者の右側)に体を傾けるきっかけになります。このタイミングでグライド側(泳者の左側)の下向きのキックが入ると、キックした足で受ける上向きの力によるトルクが働くのでローリングを助けることになります。逆にこの姿勢で逆側(リカバリー側・泳者の右足)の下向きのキックが入ると、このキックによるトルクはローリングを妨げるように作用します。

一流選手のクロールの水中映像を見ると、2ビート、4ビート、6ビートのいずれのキック回数でも、この手のかきに合わせて、同側のキックが入る選手が多く見られます。さらにこのキックを強調して強く打つ選手も多いです。このタイミングのキックによってローリングを助けていると考えられます。

さらにこのタイミングで左右の足で蹴り下げと蹴り上げを同期させ、挟み込むようにキックを打つ選手も見られます。同側(図中左足)の下向きキックに加え、逆側(図中左足)の上向きのキックを同時に行うことでローリングを助けるトルクが大きくしていると考えられます。

キックの推進力は手のかきに比べるとそれほど期待できないので、下半身を持ち上げる水平姿勢の維持や、今回取り上げたような、キックのタイミングによってローリングを助ける役割もあるのです。ただし、ローリングに関するキックはタイミングが重要なので打ち方によってはローリングを妨げてしまうこともあるでしょう。また、この「挟み込むキック」は6ビートキックのリズムを変則的にしてしまうことも考えられるので、泳ぎ全体のバランスも注意しないといけないと思います。

今回はここまでです。